リスクが怖い?

あなたの目の前には2つのボタンがあります.


右のボタンは,「99.99%の確率で1万円がもらえ,0.01%の確率で5万円がもらえるボタン」

左のボタンは,「99.99%の確率で100万円の罰金を支払わされ,0.01%の確率で5000兆円がもらえるボタン」


です.どちらも連続で押すことはできず,1回しか押せません.あなたならどちらを押しますか?

30人にこのアンケートを取ったところ,なんと29人が右のボタンと回答しました.

あなたもおそらく,右のボタンと回答するでしょう.

しかし,期待値を計算してみてください.

右のボタン 0.9999*10000 + 0.0001 * 50000 = 9999 + 5 = 10004円

左のボタン 0.9999*(-1000000) + 0.0001 * 5000000000000000

   = -999999 + 500000000000 = 499999000001円


となります.左のボタンのほうが,圧倒的に期待値が高いのです.

それでもなお,右側のボタンを押す人が圧倒的に多いのはなぜでしょうか?

これを説明するための方法の一つとして,行動に一定の基準を設けるフェイタルフィルターが存在します.

フェイタルフィルターとは,人間に限らず多くの動物が本能的に持つ,摩訶不思議な法則の一つで,数学的,線形的な価値観を壊します.

皆さんの脳には,実は5000兆円のありがたみを正確に計算できる能力がありません.具体的に言えば,地球に存在するほぼすべての人間は,5000兆円と4999兆円の違いすら正確に知ることができません.そのため,人間は限界を脳の中で決定し,計算可能な範囲で確率計算を行います.これがフェイタルフィルターです.この限界を致命的下限といいます.

致命的下限より低い報酬を得ることを負けるといい,致命的下限より高い報酬を得ることを勝てるといいます.人間は,ほとんどこの原理で動いています.


例えば致命的下限が100円の人がいたとします.その人にとって,

「99%の確率で1円がもらえ,1%の確率で1000万円がもらえるボタン」

「99%の確率で1円を払い,1%の確率で100億円がもらえるボタン」

このふたつは,ほぼ同じ期待値だと錯覚してしまいます


また,致命的下限が0円の人がいたとします.その人にとって,

A「90%の確率で1円をもらい,10%の確率で1000円がもらえるボタン」

B「90%の確率で1円を払い,10%の確率で1兆円がもらえるボタン」

この場合,絶対に上のボタンを選択してしまいます.なぜかというと,

その人にとって,この2つのボタンは以下のボタンと同じだからです.

A'「100%の確率で勝てるボタン」

B'「90%の確率で負けて,10%の確率で勝てるボタン」


この理論を用いると,かなり多くの現象を説明することができます.たとえば,ボードゲームの終盤,あと2マス進めば勝てるという状況の時,

「サイコロの目を1,2,3,4,5,6から1,1,6,6,6,6」にするというアイテムを使うか悩んでいたとしましょう.あなたにとって,致命的下限は「2」です.1が出たら負け,2より上なら勝つのです.そう考えると,このアイテムを使っても特はしない,ということが目に見えて分かります.

志望校選択でも言えることですね.国公立を第一志望にし,私立を第二志望にしていると考えて・・・「国公立に受かりやすくなるが,国公立と私立の両方に落ちる可能性も上がるボタン」これを推す意味があるでしょうか?これもフェイタルフィルターを用いれば説明できます.

致命的下限が「最低でも私立に受かること」だとしましょう.国公立でも私立でもあまり変わらないが,落ちたら元も子もない・・・その場合,このボタンは「負ける確率の上がるボタン」です.しかし,致命的下限が「国公立に受かること」だとしましょう.私立に受かっても,それはまるで落ちているのと変わらない・・・そういう考え方ですから,このボタンは「勝つ確率の上がるボタン」です.


なぜこのような話をしたか?それは,「致命的下限は変動する」からです.

80点が目標のテストで30点なんて取ってしまったとき,人間の脳は「次に80点を取ろう」なんて考えることはできません.「まず30点を超えよう」と考え始めます.

そして,「ゲームをしながらでも確実に40点を取れる方法」と「ゲームもせずにしっかり勉強して80点を取る勉強法」を天秤にかけ,「どっちも"勝てる"ならゲームしながら40点を取ろう」と思ってしまいます.

英語がとっても得意で偏差値70取れるような人が全然勉強をせずにテストを受けて,偏差値50くらいまで落ちたとしましょう.「もう一度偏差値70を目指そう」と脳が考えることはできません.一度偏差値50を取ってしまったことで,脳はハードルの高さを実感し,目標を自ら下げようとします.

そして,「がんばれば偏差値70を取れる勉強法」と「がんばらなくても偏差値55を取れる勉強法」を天秤にかけ,「どっちも"勝てる"ならがんばらなくても偏差値55取れるほうを選ぼう」と思ってしまい,二度と偏差値70へと戻れなくなってしまうのです.

すこしでも高見を目指したい,そういう人は,致命的上限を高く持つ必要があります.

おバカに囲まれれば致命的下限は下がるし,賢い人に囲まれると致命的下限は上がります.

気の持ちよう次第でも少し上方修正したりできます.


今のあなたの目標は,本当の目標でしょうか?こころのどこかで妥協していませんか?

屈さぬ気力と正確な判断力を持って,残りの人生に挑みましょう.

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