一番下にある問題

最近,ひとたび「プラスティックメモリーズ」というアニメを見始めました.自分はいわゆる「メカバレ」と呼ばれる特殊ジャンルを好むので,かわいいロボットが出てくるアニメは大体好きです.プラスティックメモリーズはどうかというと,これはかわいいロボットこそでてくるのですが,破壊要素はありません.むしろロボットなのに鼻血が出てくるシーンとかありますし,「メカバレ」とはまた違うジャンルです.


このアニメ作品を俳句で説明するなら

死ぬまでに あなたと思い出 つくりたい

が妥当だと思います.それに尽きます.それくらい,このアニメが言いたいことは単純です.ネタバレになってしまいますが,このアニメは何一つ,新しい概念とか新しいエンディングに挑戦したものではありません.

世界観は,思ったより雑です.機械には寿命があって,それは割とガッチリ決まっていて,機械は自分が死ぬってなっても何一つ疑問を持たないという,なんというか,「星をみるひと」もびっくりなくらいの恐ろしい世界観になっています.また,アンドロイド系が登場する作品の基本として,人間たちはみんな性格がおかしいです.そんな中,珍しく自分が死ぬことに強い恐怖を抱くロボット「アイラ」がこのアニメの実質的なヒロインです.


結論からいって,このアニメはめちゃくちゃ感動しました.

アニメはだいたい第一話だけ見て,「これはなんかハマらんな」となって終わるものも多いのですが,このアニメはめっちゃハマりました.最後まで見ました.あと3周くらい見ました.なので今日は,このアニメが語る3つの哲学的概念について説明します.みんなは別にこんなアニメ見なくていいです宝船の巡航は禁止になります。


1. メリーバッドエンド

まず,寿命のあるロボットヒロインと主人公がいる時点で,ほとんどの人が想像する通り,これは「ヒロインと主人公は寿命とか人種的な違いによって離れていたけど最後はラブラブになりました」系であると察します.それは大体正解です.実際は,恋仲というか仕事仲間なんですよね.そこから恋仲になる感じです.

寿命という概念があるのでこれはバッドエンド系か?と思いきや,ロボットという特徴を考えると「寿命がなんとか改善されて永遠に恋人になれる」系のハッピーエンドだろうか,という予想を立てる人もいると思います.結論からいって,寿命も改善しないし,しっかりと恋仲は引き裂かれます

で,まあ,恋仲が引き裂かれ,バッドエンドかと思いきや,主人公はその8分後になんと新しい機械と一緒に仕事はじめちゃうんです.え?ほんまに?それやばない?

このように,「誰かにとってはバッドエンドみたい,でも別の人にとってはハッピーエンドなのかな」という,ちょっとした矛盾があるエンディングをメリーバッドエンドと言います.プラスティックメモリーズの最後は,まさに「メリーバッドエンド」の一つです.


あ,ここから先は全部ネタバレです.アニメを純粋な気持ちで,初見で見たい人は
見ない方がいいです.


2.命の等価性

このアニメを見て一番最初に思ったことは,「こんなクズ人間たちが機械より長生きすることが許せない」です.

とにかく,登場人物が本当にめんどくさいです.人型ロボットが出てくる作品では基本的にロボットの優秀さを表現するために「多少問題のある人間」と「そつなくなんでもできるロボット」という対比を取ることが多いのですが,このアニメの登場人物の多くは多少どころかめちゃくちゃ問題があります.こんな奴らが生きてることが許せないレベルの.

皆さんもよく,思ったりしませんか?なんでコネ入社が優秀なヒラより上なんだとか,なんで議会で寝てる議員が給料もらってんだとか,なんで必死こいて働いてるのにニートの生活保護の方が給料高いんだとか.それを人格に当てはめたものがまさにこのアニメの登場人物たちで,「なんでこんな人間が機械なんかより長生きできる権利を持っているんだ」という,神への投げかけを最初に感じるわけです.


人の命は平等ですが,人の命の価値に対して均等であるわけではありません(=以前の記事).

つまり,価値ある人間だからはやく死んでしまうとか,価値のない人間のほうが先に死んでしまうとか,そういったことは現実にはまったく相関がありません.

ここで「その人間の存在意義と寿命に相関があるべきだ」という考え方を,「命の等価性」といいます.例えば,自分の町の医者はすごい人物だから長生きすべきだとか,高校の時のヤンキーは存在意義がないからさっさと寿命が来るべきだとか.これは," 存在意義÷寿命 "が人ぞれぞれにおいて等価である場合です.その逆もあります.こいつは優秀な人物だから早死にしてしまうだろうとか,こいつはニートだから長生きするとか.これは," 存在意義×寿命 "が人ぞれぞれにおいて等価である場合です.一般に,「命の等価性」は願望であり,実現するものではありません.

プラスティックメモリーズは,現実よりもはるかに「命の等価性」を無視した,いえ,むしろ「命の等価性」などくそくらえだという気持ちによって作られた作品であると考えられます.一見,機械はみんな同じ寿命を持っているように見えますが,それは平等であり,ある一要素が異なるものに対して均等ではないからです.


3.死の概念

プラスティックメモリーズで最も不思議な点は,やはり死の概念にあります.

みなさんは「死」って何だと思いますか?まず,死って,一瞬でしょうか,永続でしょうか.それとも,一時的なものなのか,動作のことを言うのか,指定された時間のことを言うのか・・・いろいろあると思います.

「生物学的な死」と言われれば,心臓が不可逆に止まった瞬間を言うと思います.

「社会的な死」と言われれば,信用を失った瞬間を言うと思います.

「記憶の死」と言われれば,植物状態になったり,アルツハイマー型や認知症になった瞬間を言うと思います.

プラスティックメモリーズではいろんな人物が,生物学的ではない死に方をしています.(R-18に指定されるのは生物学的な死のみなので,基本的にこの作品は全年齢です.)

例えばカヅキは「肉体的な部分死」を経験しています.いわゆる義足や義手といった概念がこれに当たります.脳や心臓は維持されようとも,これは立派な死の一つです.

マーシャは「記憶的な死」を経験しています.「人格が崩壊」とは言われていますが,これはいわゆる重度の認知症みたいなものです.

ヒロインのアイラは「意義的な死」を経験しています.これは,自らの存在意義を失うことによる死,世界が自分なしに機能することに対して自分が感じる死です.

このアニメ,人が死にすぎなんです.


で,ここまでで見直してみると,このアニメは「幸せな解決策もなく,もっと死ぬべき奴らの前に人が死に続ける」アニメであることが分かります.とにかく救われなさすぎます

フィクションなんだからもっと救われろよという気持ちもあるけど,これはこれで見ているのも好きです.

この作品は,死とは何かをよく考えさせる作品でありながら,【『我々の記憶はあくまでも「記憶」にすぎず,簡単に消滅するものである』という事実を受け入れられない人間】を,【①それ をいともたやすく受け入れる機械】と対比させることによって,人間側の受け入れられないという行動原理そのものを自身への葛藤にすり替えさせて人間の思考の脆さを如実に表現しているのではないかと思います.そういう意味で,主人公の所属するこの部署は2つの意味で「窓際部署」であることが分かります.いかつい内容です.

めっちゃわかりやすくいうと,"「どうせ記憶なんてデータだ」とわかってるのになんかいざ死ぬ時ってなると感情的になってめっちゃ②ウケるw"とロボットに言われて,なんも言い返せなくて悲しくなる,みたいな感じです.そして,無常に直面すれば,まあ人も辞めていくだろう,ということで窓際部署,と呼ばれるわけですね.卑劣なテーマです.


久しぶりに感動できるアニメが見られたのでとりあえず気分はいいです.

でも僕が本当にみたいのはメカバレというジャンルなので,そういうアニメがあったら教えてください.いつかメカバレがR-18Gジャンルではなくもっとカジュアルなジャンルになればいいなと思っています.


では,問題です.


問1. 「①それ」が指し示すものとして最も適当なものを,以下のア~エの中から1つ選び,記号で答えなさい.(70点)


ア.我々の定義した「記憶」というのはあくまでも消去可能なものであり,かつ不可逆であり,かつ永遠に保持されるものではないということ.

イ.「記憶は簡単に消滅するものだ」という事実を受け入れられない人間が世の中に一定数存在しているということ.

ウ.記憶は簡単に消滅し,それと同じように,人々が「思い出」と呼んでいるものも簡単に消滅する可能性があるということ.

エ.寿命があり,寿命を過ぎると記憶はすべて失われ,自己はどこにも存在しなくなるということ.


問2. 「②ウケるw」の理由になるものとして当てはまらないものを,以下のア~エの中から1つ選び,記号で答えなさい.(30点)

ア.人間の理解

イ.人間の努力

ウ.人間の矛盾

エ.人間の選択



テストは異常です.お疲れさまでした.


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