振り返れば放射線

いやー韓国が「オリンピックは福島原発なんかあった日本にやる資格なし」なんて言ってますが,日本人の反応も面白いものが多いですね


韓国政府に対する日本人の多くの反論は

「日本がオリンピックをやる資格がないことを指摘したことは素晴らしい.しかし理由は福島原発とは全く関係ない」

「日本はオリンピックをやるべきではないが,放射線には全く問題がない,それをなぜ知らない」

と言ったものがほとんどです.僕も割とこの立場でした.


ところがどっこい,僕の研究室にいるドイツ人の先生がですね,「いや,世界のニュースを聞く限りではむしろ日本は超危険だ」と,言うわけです.

俺もびっくりです.そこで,福島県が公開している放射線測定量マップって言うのを,見せてやったわけですよ.

一応,URLを貼っておきます,が・・・

このサイトを見ていて,疑問に思ったことが一つだけあります.

それは,このサイトには英語版があるにも関わらず,英語版には詳細な説明がないと言うことです.


なんだかおかしくないですか?これは測定値を表示するだけのインターフェースであり,

もはや言語の壁など存在しないデータであるはずであり,英語版を作るなど,チョチョイのちょいでできるはずです.


そしてもう一つ,このサイトの運営者は福岡県になっているのですが,この調査を進めた人が誰なのか,と言う詳しい情報が一切,開示されていないのです.


これもおかしくないですか?普通,誰が調査したかと言う情報は開示するものだと思います.

誰かが責任を持つべきです.県が行なったと書くのはわかりますが,県の全員がやったと言うのはあまりにもおかしく,普段から責任のなすりつけ合いをする日本の政治家的には,むしろ一人くらい責任者を立てて,全部そいつになすりつけたりしそうなものなのに・・・不思議じゃないですか?


問題はここだけではありません.なんと,この福島県が出している測定結果,これこそが安全性を証明する情報源であるにも関わらず,Wikipediaの福島第一原発事故後の対処において,これが述べられていません.


と言うか,このページ,日本語版がないんです・・・
おかしくないですか?

この事故は日本人が一番よく知っているはずであり,なぜ日本語で書かれていないのかと言う非常に大きな疑問を抱きます.

振り返れば,自国である日本でも,すでに正しい情報が手に入らないと私たちは知っていたはずなのに,どこか放射線量を盲信していた節が・・・あったかもしれません・・・



しかし,この情報不備,日本語だけに限った話ではありません.

英語版の記事でも,取り上げられている内容がかなりおかしいです.

例えばこの記事.



タイトルは見ての通り,「被曝してまでオリンピック見に行きたいか?」と言う,超挑発的な内容です.

そして,日本の内容との食い違いはもうどの記事でもだいたい同じです.


(1)「年間250mSvと言う恐ろしい状況下に置かれつつも,世界平均より低いがん発生率を維持する国がある」


この説明は,イランのことを示しています.間接的に,Svで測定した内容が基準値に達成していることを提示する日本に対して,そんなもん役に立たないと言っているわけです,

おまけに,マスメディアの信頼がそもそも保たれていない日本の現状が原因で,この福島県の取っている統計の信頼も全く保たれていません.その辺のザコが1しか出ないサイコロ振って「1しか出なかったぜ〜〜」っていう統計取ってるのと同レベルだと思われてる,ということです.

また,チェルノブイリと福島では,対策の取られ方にも違いがあり,チェルノブイリでは「1986年代に生まれた人たちが,一生涯の間に受ける放射線被爆量を合計70mSvに抑える」

という,合計量目線での説明であるのに対し,日本では「年間20mSv以下を保持し,長期的に年間1mSvに抑える」という説明になっています.この「長期的に」という発言が問題で,「現時点で20mSv以下は保たれており,しばらくは放っておいてもいいだろう」という発想が世界的に危険視されています.40年間これが続けば,800mSvですからね.

しかしこれも,福島県の統計が正しければ,すでに問題のない線量になっているはずです.・・・・統計が正しければ


(2) INESに置ける危機管理レベルを7に引き上げたにも関わらず,高々8年程度で安全というには無理がある


この説明は,INESの危機管理レベルについて話してから出ないとわからないでしょう.具体的には,チェルノブイリの深刻な事故が7で,日本は福島の事故に置ける危機管理レベルを当初4と設定していたにも関わらず,後から7に引き上げたことで,そもそも日本の危機管理能力・技術能力に対する信頼が失墜した,という説明です.


(3) チェルノブイリと福島での統計は指標や測定方法が大きく異なり,一概に危険度を比較できない


これはなんというか・・・メートルとフィートが戦ってるようなやつです.チェルノブイリ の事故においては,Bq(ベクレル)という単位で放射線量を測っています.これは,一定サイズの放射性物質が1秒間にどの程度放射線を放つか,という単位です.これに対し,福島の事故ではSv(シーベルト)を利用しています.この単位は,人間が受ける放射線量の被害がどの程度になるか,という指標に基づいています.具体的には,


「放射線は多いけど,人間の体を貫通して出て行くものだらけ」→Bq 高 , Sv 低

「放射線は低いけど,全部人体に吸収される」 → Bq 低 , Sv 高


こんな感じです.健康被害を語るにおいては,シーベルトの方が役に立ちそうですね.

というか,問題なのは「なぜ違う指標を使ったのか」ですよね.


だって考えてくださいよ.チェルノブイリの方が先に事件を起こしてて,それをBqで測っていて,福島で似たような事故が起こった時に違う単位のシーベルトを使う理由ってなんですか?

たまたまシーベルトの方が測りやすかったから?チェルノブイリの事件があったなら,学術的にもベクレルで測る方法を一般化して,研究を進めているはずだと思いませんか?

でまあ,ここでその記事の詳細を読み漁っていると,このBqによる指標はどうやら福島事件後の日本語で書かれている記事である,ということに気づきました.


Google検索の日本語版ではこの記事がトップに輝きますが,英語で "Chernobyl affected map" と検索すると,こいつは出てきません.5ページ目まで見ましたが・・・出てきませんでした.


その他,世界中では様々な齟齬というか,問題というか,日本が実は隠しているんじゃないかという事実に気づきます.


(A) 世界的には,日本が被爆線量の境界を1mSvから急に20mSvに上げて,その上で安全と言っているのはおかしい


これについては,日本が昔からそういうルールを作っていたと書かれています.そして,「100mSv以下である限り,がん発生率に上昇は見られない」とも政府は述べています.

しかし,これは「年間100mSv」ではないということにも我々が気づくべきです.

”言葉の綾”ですね.

この声明が正しいのであれば,「年間20mSvを維持しているから安全」という日本の発想は,おかしいということが判断できます.だって,単純に考えたら5年で危険値到達になりませんか?


ここまで読み解いて行くと,チェルノブイリ法で述べられている「一生涯被爆量を抑える」という考えが非常に正しいと感じられ,さらに,韓国の言う「放射線量という意味で日本は安全ではない」という主張は,あながち間違っていないというか,それを信じ続けてきた俺たちはまるでバカというか・・・なんというか・・・



...こうやって,色々考えて,辻褄が合っていくたびに・・・

なんだか,やるせ無い気持ちになるんですよね・・・


僕は今の現状を見て韓国のことを良い国だと最近思えなくなりましたが,

世界的には,どうやら,日本の方が圧倒的に状況が悪いようにも感じられます.

こんな時,自分で情報の取捨選択ができる人間は,強いな・・・って思いました



はぁ,寝ます.寝れば,また明日には全て忘れて,バカになれると思うと,

皮肉にも,気分がいいです.


5コメント

  • 1000 / 1000

  • mitazin

    2019.09.04 12:45

    @mitazinまぁ確かに、日本が国として適切な調査や、国内・海外への広報、合理的な根拠に基づく規制等を行っているかは、寡聞にして存じませんが。
  • mitazin

    2019.09.04 12:45

    @mitazin4.年間線量限度について。 100mSvは急性または"年間"ですよ? 例えば下記リンクにある、国際放射線防護委員会の2007年勧告の(36)や(236)を参照のこと。 https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/ANIB_37_2-4
  • mitazin

    2019.09.04 12:45

    @mitazin3.BqとSvについて。 チェルノブイリについても人体への影響について言及するときは、福島の事故と同様Svを使用していますよ? もちろんロシアにおいて言及するときも。 例:ロステスト内の記事 http://79.rospotrebnadzor.ru/fbuzeao/index.php/eshche/informatsiya/549-den-pamyati-katastrofy-na-chernobylskoj-aes 用途が異なるのですから当然、両方使用されています。 また例えるなら、ハロゲンヒーターや蛍光灯があったとして、それらから放たれる光の総エネルギー量がBq、体がどれくらい温まるかがSvといったところでしょうか