3分,また3分
私は中学生のころ,老人ホームに歌を歌いに行ったことがあります.中学生の頃ですから,今98023歳である僕からすると,なんとも10年近く前のことになるわけです.
僕は歌が好きです.だから,老人ホームに歌を歌いにいった,その時の僕は,非常に豊かな表情をしていたと思います.なんせ,半年もその歌を練習してきたんですから.同時に,最前列にいたおばあちゃんの表情も良く覚えています.青い服を着ていたことも,右側の歯が欠けていたことも.そして,歌い終わる時の拍手を,一番長く続けてくれたことも.僕はあの青い服を買いたいと思ったことはないですし,歯を大切にしようと思ったわけでもありませんが,とても,記憶に残っています.
とはいえ,この思い出を振り返ると,無駄だなあと思うこともあるわけです.
それは,まさに「歌の練習」.
老人ホームに歌を歌いに行くとはいえ,歌うのは高々3分なんです.1曲ですもん.
そんな3分のために,半年も練習してるって,バカらしいですよね.
3分の,十数人程度の老人たちの3分のために,100時間くらい捨ててるんです.
100時間もあったらゲーム何本も進められるし,ハリーポッターだって読破できるし,
勉強だってできるでしょう?
でも,あの3分は,本気でした.
半年の努力は3分で無駄になってしまいましたが,至高の3分でした.
そして,服屋で青いのを見るたびに,「ああ,あの最前列のおばあちゃん,こんな服着てたな」って,思いだすようになりました.
「今,あのばあちゃん生きてんのかな」って.
「あのとき一番最後まで拍手続けてくれたな」って.
そして,またどこかで歌を歌うたびに,
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