過去を変えられないと思った?

タイムマシンとか,若いころは非常に興味をそそられるもので,過去に死んでしまった人を救いたい,というようなケースはよくあるもんだ.そのような夢と希望を,木端微塵にしてしまうのがタイムパラドックスである.タイムパラドックスとは,簡単に言えば,矛盾である.タイムパラドックスの存在は,タイムマシンに限らず,過去を変えることができるのか,という問いをより複雑にする.

故に,過去に死んだ人を救えるかどうかは,定かでは,ない.


タイムパラドックスは起こり得ない.ここは間違いない.しかし,タイムマシンが開発されたとして,タイムパラドックスが起きないのはどうしてだ?という疑問が生まれるわけだ.私はタイムマシンは作れると思っている.だからこそ,タイムマシンを使って過去を変えてしまった場合,どうすればタイムパラドックスが起こらなくなるのかが,非常に気になる.今回は,タイムパラドックスの原因と,タイムパラドックスが起こらない場合,世界がどうなっているのかについて考える.


タイムパラドックスには,起因型消滅型がある.起因型とは,すでに起こっている現象を,自らが干渉して消すことである.例えば,自分の親の存在を抹消する,といった方法だ.タイムマシンを用いて親を抹消すると,自分が生まれるはずの親がいなくなる.そうなると,自分はどうやって生まれたの?となるわけ.このように,もともと存在しているものが,存在できなくなること,これが起因型タイムパラドックスだ.

消滅型とは,すでに起こっている現象を,自らが起こしてしまうことである.例えば,あなたのそばに謎の人物が現れ,あなたに宝の地図を渡す.あなたは宝の地図を見ながら,宝を発見し,大金持ちになる.その何十年か先で,自分はタイムマシンに乗って,過去の自分に宝の地図を渡す.そうなると,じゃあその宝の地図はどうやって生まれたの?となる.このように,もともと存在しているものが,それ自身によって存在させられてしまうこと,これが,消滅型タイムパラドックスだ.しかし,理論的には,消滅型タイムパラドックスは起こせない,というのが通説になりつつある.


今回は,起因型タイムパラドックスのみについて考える.

このようなタイムパラドックスが発生すると考えられるとき,世界はどのようにしてこのタイムパラドックスをなかったことにするのだろうか?


(1) 復元収束

これは,タイムパラドックスが自己修復可能な範囲でしか起こらない,とするものである.例えば,過去にさかのぼり,自分の親を抹消しようとしたとする.その時,撃つための銃弾が不発になったり,抹消に成功したように見えて実は生きていた,というようなことが頻繁に起こる.これが,復元収束というタイムパラドックス回避のアルゴリズムだ.

復元収束の場合,自分の親はどうやっても抹消することができない.父親と母親を引き離そうとしても,その何十年か先で必ず出会い,結婚し,あなたは誕生する.

非常に不可思議に見えるとは思うが,復元収束は理論的にもまだまだ矛盾の少ないアルゴリズムである.


(2) 世界線拡散

これは,タイムパラドックスが世界の変化によって受け入れられるとするものである.

例えば,過去にさかのぼり,自分の親を抹消したとする.未来に戻ると,自分の記憶はそのままに,未来が変わっている,ということである.きちんと親は消されており,あなたは生まれていないことになっている.この理論は矛盾を必ず回避でき,制限もまったくないのだが,同時にあなたはタイムマシンを使うことに相当な覚悟を求められる.

というのも,あなたがタイムマシンを使ったその瞬間に,あなたは自分のいた未来へ戻ることができないからである.あなたが生まれた世界の,今の時間をAとしよう.過去にBという時間があったとする.あなたはAからタイムマシンを使って,Bに移動した.誰にも見つかっていないし,なんなら小動物にすら会っていないとする.しかしその世界は,「未来から来たあなたが存在する」という世界であるため,Bではなく,B'なのである.例え何もしていないつもりでも,移動した時点でその世界はB'なのである.絶対に,Bへ行くことはできない.

問題はここからである,あなたはB'からAに帰ろうとするが,過去はすでにBからB'になってしまった.つまり,未来はA'になってしまうのである.あなたはそのタイムマシンを使った瞬間から,Aという未来には帰ることができない.もし,B'に移動したあなたが,ほとんど何にも影響を与えずにA'まで帰ってきたとしよう.そこには自分の知っている自分の親,自分の兄弟,そして,自分自身がいるのである・・・!あなたはもう,A'という世界において「架空の人物」となってしまうわけだ.

しかし,もっとも可哀そうなのはAの時間を生きる人たちである.Aに存在する親は,あなたが急にいなくなったことを知る.そして,あなたは二度と帰ってこない.親にとってこんな悲しいことがあるだろうか.遺体すら見つからず,どこかで生きているかもしれないと,ひたすら無駄に探しまわるのである.本当にかなしい.


(3) 再帰的再構築

タイムパラドックスにおいて,もっとも恐ろしいのは再帰的再構築である.例えば,あなたがタイムマシンで過去へ戻り,親を抹消しようとする.あなたは過去に降り立ったその瞬間から,普通の人間ではなくなる.その世界に降り立ち,タイムマシンから外に出て,1歩,また1歩とあるくたびに,あなたの記憶はどんどん塗り替えられていくのだ.

過去の世界で人と会えば恐ろしいことになる.歴史が少しでも変われば,あなたの脳が持つ基礎知識が急に変わるのだ.あなたは正気ではいられないだろう.

親に会おうと思い,目まぐるしく変わる記憶と戦いながら,親を見つける.その親に向かって.刃物を突き付けようと近寄る,その瞬間.


あなたは,消える


刃物も消え,タイムマシンも消える.その世界ではその後,本当に親はあなたを産むことなく一生を終える.未来は,あなたのいない世界に塗り替えられてしまう.


過去の世界の売屋に行き,あなたはその売屋の店主に対して「この売屋,5年後に潰れるんですよ」と言うとする.その言葉を口にしている最中,あなたの記憶は一気に変わる.そして発言を終えた頃には,「あれ,たしか,この売屋は繁盛したんじゃなかったっけ」と疑問を抱く.そして,その売屋は実際に繁盛するのだ.

あなたの存在は常に未来と連動しており,あなたの記憶も連動している.そして,未来は変えることが可能だが,その変わる瞬間からあなたの存在・記憶も同時に変化する.それが,再帰的再構築である.

再帰的再構築もまた,自分のいた世界に帰ってくることはできないが,似た世界に帰ってくることはできる.その世界には自分の家族がいて,自分の親と兄弟はいるが,ちゃんと自分はおらず,自分にも「タイムマシンにのって過去へ行き,今帰ってきた」という記憶が残る.

そこにはなんの矛盾もないが,それは完全な世界ではない.例えば親の性格が変わっていることもあるし,近くにあったビルなどが急になくなっていることもある.自分が通っている学校や職場も違うところになっているかもしれない.しかし非常に興味深いのは,自分の記憶が変化しており,変化後の親の性格,ビルがない理由,違う職場の場所など,あなたはすべて完璧に記憶しているのだ.これが非常に面白いことで,自分はこの過去を歩んでいることになっており,かつ自分は過去を過ごした記録を持っている.

再構築収束は,絶対に矛盾こそ発生せず,過去に変化を加えることができ,かつ自分のいた世界に機関することができるアルゴリズムである.しかしそこには一つ大きな問題がある.あなたは,タイムマシンを使ってどのように世界を変えてきたのか,まったく覚えていないのだ.あなたは確かに過去を変えた.しかし,あなたがタイムマシンを使う前,もともとどんな世界だったのか・・・それを知る方法は,一切ない.紙きれに書いていても同じだ.紙に書いていれば忘れないだろうと思って紙を見直すと,書いた文字が変わっている.

そしてあなたはこういうのだ,「確かに俺はこう書いた」


さて,今回は3つのタイムパラドックスが起こらない理由に対しての仮説を述べた.

私は,2つめの世界線拡散が最も有力だと感じているが,真相は神のみが知る.


あなたはタイムマシン,もとい「過去を変えること」にどのような意見をお持ちだろうか.

タイムマシンは作れるか否か,

作れるとすれば,過去を変えることは可能か否か,

過去を変えることができるなら,タイムパラドックスはなぜ起きないのか.


タイムマシンなど作れるわけもないと,笑われることはしょっちゅうだ.それでも私はタイムマシンを信じている.それもまた,宇宙に関する勉強を始めた高校3年生のころからだ.

世界を理論的に見ることができる天才たちが,過去を変えられるだの変えられないだの,話をするのである.彼らは,タイムマシンで過去を変えられるかどうかは,まだ分からないとしている.私も,物理の勉強をして,数学の勉強をして,世界をある程度理論的に見ることができるようになった.すると私もタイムマシンを信じるようになった.奇跡も魔法もあるんだと思うようになった.そして私も,過去を変えられるかどうかは,確かに分からないと思ったのだ.


故に,過去に死んだ人を救えるかどうかは,さやかでは,ない.

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